院長コラムhead doctor’s blog
心地よい音は薬にも勝る23.6.11
今回は今年の春に担当させて頂いた患者さんのお話しです。
ご本人はご住職の奥様で、半世紀に渡ってお寺の庶務をこなされ、ご住職を支えてこられたそうです。入院中の病院で余命数日と言われ、それなら家に帰りたいということで担当させて頂きました。自宅に戻った際には傾眠状態で極めて病状は悪く、確かに余命数日という印象でした。境内には開花前の桜の木がありましたが、開花は見れないかなと頭の中で考えていました。
ご住職は朝夕のお勤めとして読経と鐘を鳴らされており、お勤めの前にご本人に声を掛けられていました。
凛とした静寂な境内に、ご住職の力強い読経の声が流れ、ご本人にも聞こえています。また檀家さんからの電話や来客に応対するご住職やご家族の声も、ご本人はベッド上で全て聞いておられます。
半世紀以上の変わらぬ日々の光景が、確かにそこにはありました。
そしてお勤めや応対が終わってご本人の顔を見るといつも穏やかだったそうです。
自宅に帰って数日どころか、1週間が過ぎ、2週間も過ぎたので、その間に見事な桜も咲きました。そして桜が散るのを待つかの如く静かに旅立たれました
私たち在宅スタッフも種々の在宅ケアを提供しましたが、ご本人に一番効果的だったのは「日常の音」でした。
在宅医療には家族負担があるので綺麗ごとだけではありませんが、その苦労を選んだ人だけが得られるかけがえのない時間/価値があります。
これが私たちが従事している在宅医療の日常です。