院長コラムhead doctor’s blog
頑固だが運の強い人18.8.24
少し長くなりますが先日のことです。
80代女性の一人暮らしの方で、1年くらい訪問診療を続けている患者さんのお話しです。
普段は2週間に1回訪問していて、性格は非常に頑固で自分が納得しないと周りの意見は聞かない人です。
平日の朝7時半に本人から電話がありました。
「昨夜からもの凄くお腹が痛い。夜中に電話しようとしたが朝まで我慢していた。痛みはだんだん強くなっているので、すぐに来てほしい。」
ちょっとの事では電話してこない方なので一大事と考え、車の中で腹痛の原因を考えながらすぐに往診しました。当然その日の午前中の予約の方はすべて時間変更です。
診察するとかなり重症の腹痛で、すぐに病院受診が必要な状態でした。
その旨を説明しましたが、ご本人は脂汗をかきながら病院には行きたくないからまずは痛み止めを打ってほしいと希望されました。
説得を試みましたが、性格は一旦言い出したら考えが変わらない方です。しかし義理にも熱い方です。
そこですぐの病院受診を諦め、希望通り痛み止めを打つが2時間後に私が再訪問することを交換条件として了承を得ました。
私は、再訪したら1日に2回も来たんだから病院へ行くと言うだろうと義理深い本人の性格を読んでいます。
「2時間」の根拠は、
1.緊急の治療を要する腹痛であり、2時間以上は待てないこと
2.この腹痛には痛み止めがほとんど効かないこと
3.2時間後の再診後に救急搬送してもまだ正午すぎのため、病院は通常業務の時間帯で緊急手術等の対応がスムーズにして頂ける時間帯であること
そして再訪問すると、痛み止めはやはり効果なく腹痛で苦しんでいます。
「もう効く痛み止めはないから、救急車で病院に行ってきちんと調べてもらおう。私も一緒に救急車に乗って、病院の先生に引継ぎをするから安心してね。」
一人暮らし&強い腹痛があり自分で病院受診の準備ができないため、身の回りの物と保険証、薬一式をまとめました。そしてご本人がかかりつけの病院に救急で受け入れて頂けるように直接電話で交渉し、搬送の了解を得てから119番へ連絡。通常救急隊は現場に到着して搬送者の状態を確認してから病院に搬送依頼の交渉をしますので、病院の了解が得られるまで現場から発車出来ないのです。しかし先に在宅医が搬送病院を確保していると、すぐに搬送して下さるので時間のロスが全くありません。
これはご本人のためにも、多忙な救急隊員のためにも理に適っているため、私は常に心がけています。また救急車に同乗したのは今回で5回目です。
病院の救急外来で荷物を事務員に渡し、ER医師に申し送りをして病院を離れました。
数時間後に病院から連絡を頂き、非閉塞性腸管虚血症(NOMI)の診断ですぐに緊急手術となったと報告を受けました。
NOMIは皆さんには聞き慣れない病名だと思います。かなり稀な疾患で腸管の虚血により腸管が腐り(壊死)、手遅れになると広範囲の腹膜炎や多臓器不全を起こして致死性が90%と非常に怖い疾患ですので、この方もあと半日遅ければ亡くなっていたかもしれません。
手術では約20cm腸管が壊死していたそうですが、無事に回復して退院されました。
実はこの人、人生で2つのがんの治療を受けてその度に克服されています。
本当に運の強い人ですね。
以前のブログで、「命は救えないが~~~」と書きましたが、あれは末期がんの方のことです。
今回のように病院での治療の必要性/可能性があると判断したら、ご本人と相談し病院紹介もしていますので悪しからず。
私は決して「必殺看取り人」ではありませんからね。
在宅医として質の高い在宅医療を私なりに追求しています。
来月は先天性の難病でNICUにいる新生児の在宅医療を引き受ける予定です。
私にとって新生児の在宅医療は全く初めてで未知の領域ですが、ご家族や病院の小児科医、訪問看護師さんと協力して担当させて頂きます。