院長コラムhead doctor’s blog
必死に生きる力と穏やかに死ぬ力22.7.24
暑さとコロナ第7波の真っ最中ですが、私も神﨑先生も変わらず訪問診療をしています。
今回は終末期に関する本質的な話題を書こうと思います。
ちょっと難しいかもしれませんが、どうぞお付き合い下さい。
最近復習を兼ねて、以前読んだ本を読み返していました。
その中に、ヒトには「生きる力」があるだけでなく、「死ぬ力」のあるのではという一節がありました。
医療者なら誰しも経験あることですが、入院中の患者さんにあらゆる治療を行って助からないと判断しても、回復して退院する人がたまにいます。
終末期を担当している私の経験では、訪問診療開始時に余命1か月以内と考えていても、6カ月~9カ月担当するケースが年に3~5人あります。
一体何が良かったのかは分かりませんが、年齢とか体格とかは関係ないです。
私の在宅医療での経験では、患者さん本人に余計なストレスが全くorほとんどない人が多いような気がしていますが、とにかくヒトには「生きる力」が備わっていると考えられます。
さて今日の本題の「死ぬ力」についてです。
「生きる力」と二律背反の「死ぬ力」はヒトに備わっているのでしょうか?
そもそも「死ぬ力」って何でしょうか?
この問いに対する科学的/医学的な答えはまだありません。
ですので以下は全て仮説や経験談です。
ヒトがもう助からない病状で死が直前に迫った時、眠らせる薬を使っていないのに自然に寝たまま(傾眠といいます)となることがよくあります。
死のどれくらい前に傾眠が出るかというと数時間前~数日前です。
傾眠の考えられる医学的理由としては、低血圧、低体温、電解質異常(ナトリウム/カリウム/カルシウムetc)、尿毒症、低血糖、肝性脳症、ナルコーシス(CO2貯留)などがありますが、これらでは説明出来ない傾眠も日常的に経験します。
もしヒトの脳が死が不可避の状態と判断して、最期の苦痛を感じなくさせるために傾眠状態を指示していたら・・・。
傾眠状態の患者さんの表情は皆さん穏やかなので、恐らく苦痛は感じていないと考えられます。
寝ているのにどうしてそれが分かるかというと、傾眠中に看護ケアとして体の向きを変えたり着替えたりする時に、苦痛や痛みを感じると眉間に皺が寄ったり、手で払いのける動作をするからです。そして看護ケアが終わると、元の穏やかな傾眠に戻ります。
もしかしたら、高度な頭脳を持つヒトにはその高度さ故に、「必死に生きる力」と同時に自然に傾眠となる「穏やかに死ぬ力」があるのかもしれませんね。
私達が担当する患者さんと家族さんは百人百通りですが、唯一共通するのが「最期は穏やかに過ごしたい」です。
もしヒトに「穏やかに死ぬ力」があるのなら、それを引き出せるように努めるのも在宅医の役割だと私は考えています。
一体どうしたら「穏やかに死ぬ力」を引き出せるのでしょうか?
長くなったので、続きは次回に。