院長コラムhead doctor’s blog
ただただ聴くですが・・・21.10.28
現在の医学ではどうにもならない病状は数多くあります。
私と神﨑先生が担当している患者さんのほとんどはそういった方々です。
症状緩和と生活改善を出来る限り目指しますが、なかには全く為す術なしという方もおられます。
最近の訪問での一幕です。
あるがん患者さんで、がんの転移のために下半身麻痺でベッド上生活の方です。
上半身の動きは問題ないので、手の届く範囲に色んな物を置いています。
がんの勢いは抑えられているので、寿命はまだまだありますが、しかし自分で動くことは出来ません。
ご家族や友人達のサポートもあり、この状況でもご本人は非常に前向きに生きておられます。
私はそう思っていましたが、実はそうではありませんでした。
先日の定期訪問時、顔を見た瞬間にいつもより僅かに表情が暗いことに気付きました。
しかしその理由は分かりませんから、私は神経を研ぎ澄まして少し慎重に会話を開始しました。
いつも私の訪問を心待ちにしてくれているのですが、最近の報告をしてくれている途中で突然泣き出しました。
「もう生きているのが辛いんです」
「どんなにリハビリを頑張っても良くはならないし、(がんの進行して)お迎えが来ることもすぐにはない」
「本当は先生に言うつもりはなかったのに・・・」
表情が暗かったのは、気持ちが既に限界を超えていたのを我慢していたためでした。
大病院で下半身麻痺についてもう治療はないと言われ、私の訪問診療が始まって1カ月半。
1カ月半というのは精神的にピークが来る時期でもあります。
私には特別な能力はありませんので、下半身麻痺を治すことは出来ません。
しかしこの方の在宅医として、何をすべきかを考えて実行することは出来ます。
泣きながらでも辛い心情を話してくれたのは、信頼されている証でもあります。
その信頼に少しでも応えるためにも、丁寧に聴くことにユーモアを添えて私の役割を果たしたいといつも思っています。
聴いているうちにお顔に赤みが少しずつ戻り、退室時はいつもの表情に戻られたように私には見えました。
これが私の役割の本質なのかも・・・。