院長コラムhead doctor’s blog
覚悟のコンサート21.11.26
もう11月も終わりですね。
今月はとても落ち着いていて、結構休養が取れました。
ブログの回数が多いのはそのためです。
今日は数か月前に担当した患者さんのお話しです。
患者さんは40代のがん末期の方でした。
初回訪問の時はまだ比較的お元気な状態で、それまでの治療歴や家族の事などを沢山お話しされていました。
担当して1か月が過ぎ、徐々に病状が悪化していきます。
ある日の訪問でご本人とご家族が深刻な表情で私を待っていました。
何事かと思い話を聞き始めると、ご本人がコンサートに行くと希望し、ご家族は大反対していました。
ご本人は絶対に行くと強い意思で、家族を説得して欲しいと希望。
ご家族は絶対に行かせたくないと、本人を説得して欲しいと希望。
当然私は両者の気持ちが分かりますから、板挟み状態です。
ご本人は今行かなければ、次のコンサートは行けないことを覚悟の上での希望でした。
この数か月前にも同じアーティストのコンサートを予約していたそうなのですが、コロナでコンサート自体がキャンセルになったそうです。
会場は大阪で、現地で待ち合わせの親友と2人で参加するから、何かあっても大丈夫と1点張りです。
ご家族は行かせてあげたい気持ちはあるけど、移動も含めて何かあれば大変だし何よりも貴重な体力を消耗するのではと心配されています。
両者の鬼気迫る訴えの中で私は神妙な面持ちで聞いていましたが、私の頭の中はご本人の希望を叶えるにはどう家族に納得してもらうかの1点です。
幸いこの日までもご家族とは何度も顔を合わせていて、信頼関係は構築出来ていました。
そして両者に以下の条件を提示しました。
- 移動は家族のクルマで移動し、本人は車内で休むこと
- 大阪で何かあったら我々は自宅に行って帰りを待つので、とにかく和歌山まで帰ってくること
- 一緒に参加する親友にも我々のサポート体制があることを伝えて了解を得ること
他にも細かい事を幾つかお願いしましたが、その後も話し合いを続けご家族には納得して頂けました。
当日、ご家族は仕事を休んでドライバーをしてくれ、訪問看護師さんが家を出る前に最終サポートをして出発しました。
私はいつも以上に緊急コールを見落とさないように気を付けました。
何事もなく過ぎ、ご家族からは大阪を出発します→無事に自宅に着き、特に往診も要りませんと連絡あり。
後日訪問した際には、満足げなご本人と安堵の表情のご家族がおられ、両者から深い感謝のお言葉を頂きました。
人生の最後に大好きなアーティストの生声を聞きながら、ご本人はどんなお気持ちだったのでしょうか?
きっと人生で最高の2時間で、1曲1曲を噛みしめて聞いていたに違いありません。
でも会場の近くで車を停めて待っているご家族さんは、気が気でない2時間だったことでしょう。
コンサートからちょうど1か月後に旅立たれました。
この方に求められた私たちの役割と責任は十分に果たせたと考えています。
ご本人とご家族のそれぞれの想いや主義/主張が交錯するのが在宅医療の現場です。
いつもご本人の希望が叶う訳ではありません。
ご家族の想いが強すぎたり、病状悪化が早過ぎたりで、我々が手を尽くしてもどうにもならないケースも現実にはあります。
しかし、どんなケースでも最期までご本人とご家族に寄り添うことを諦めないことが私の方針です。
少しボケていて分かりにくいですが、2階吹き抜け部の窓際です。
人間には届かない場所なので、兄弟にとっては聖域です。
安心して寝ていますね。