院長コラムhead doctor’s blog
障害特性を持つ方の在宅医療①19.7.4
今回は、昨年担当した患者さんのことを書きます。
30代、男性、胃がんとある病院で診断されました。
本来ならがんの治療(手術)を行うのですが、重度精神遅滞(知的障害)があるために入院治療が出来ないので、
あとは在宅で診て欲しいという依頼でした。
両親が自宅でずっと世話をしていて、公的な福祉関係の支援は受けていました。
しかし医療の関しては、病院から無理と言われると、本人と家族は途方に暮れてしまいます。
障害者の方でもがんになることはあるのに、障害特性のために大病院での入院は難しいということで、
よくよく振り返ってみると、勤務医時代に障害者の担当医になったことは記憶にありませんでした。
この患者さんの依頼を聞いた時には、果たして私に診れるかなと初めは考えました。
でも私が断ったら、もしかしたらこの人達に在宅医は見つからないかもと思い、お引き受けをしました。
自宅へ初回訪問する時は、いつも以上に緊張していたのを今でも覚えています。
ご本人は自宅に初めて来た人間に戸惑っていました。
身体障害はなかったため、部屋の中を時折声を上げながらウロウロと歩き回っています。
本人の横では、両親は一生懸命私と訪問看護師さんのことを本人に説明してくれています。
歩き回っている姿と表情を見ていると、少なくとも大きな痛みと呼吸苦がないということは分かりました。
とにかく本人に慣れてもらうために、笑顔を絶やさず静かに待ちながら、両親から本人の情報収集をしました。
私達が両親と話しているのを見ているうちに、本人は少しずつ落ち着きを取り戻していきます。
本来は診察をしますが、歩き回っているし経口摂取もしていたので、その日は無理に診察をしませんでした。
もしも病院受診の時に、聴診や診察で体に触れられたことに恐怖を持っていたら、以後の訪問診療に大きなハンデとなるかもしれない可能性も考慮しました。
こうして、私にとって初めての重度障害者の方の在宅医療が始まりました。
長くなるので、続きは後ほど。
追記
病院側を責める意図で書いているのではありませんので、誤解されないようにお願いします。
重度障害者の場合、入院を維持するのが病院側にとっていかに難しいかはよく分かっています。
この方を担当することで、私が知らなかった在宅医の大事な役割の1つを学ぶきっかけになったので、病院から私を指名で紹介して頂いて感謝しています。