院長コラムhead doctor’s blog
ブレない愛23.10.30
今回は私よりも若い女性のがん患者さんのお話しです。
大きな病院で様々な治療を頑張ってこられましたが、ついに万策尽きて終末期となり在宅医療を希望されて病院から紹介がありました。
病院からの情報ではかなり悪いという内容でしたのでそのつもりで自宅に伺うと、ご本人は庭で水やりをしておられびっくりしました。
リビングに入ってから今後の方針を相談しましたが、平日の午前中だったのでご主人も小学生の子供さんも不在で、単刀直入に話し合いが出来る環境でした。
ご本人は非常に聡明な方で、ご自分が家族と別れるまでにやるべき事を熟考され、一つずつ実行もされていました。一例をあげると、
・ご主人へのあらゆる日常生活の申し送り
・子供さんに自分の余命が僅かであることを伝える
・子供さんの担任先生に余命僅かであることを伝え、子供が学校を休みがちになることの許可を得る
・ご自分の友人に頼める用事は出来るだけ頼む
これらはきっとほんの一部で、私が聞いていない事もたくさんあったと思います。
それくらいご自分の置かれている状況を冷静に把握し、今為すべきことは何かを正確に考えて行動されていました。
そんな彼女ですから、私達在宅スタッフに対しても自分の希望を冷静に伝えられました。
在宅医療が始まってしばらくすると、腹水が大量に溜まり自分で動くのは難しい状態となりました。
その頃から小学生の長女さんが学校を休んでお母さんの身の回りの手伝いをしていて、私の訪問時にはお母さんの真横でずっと診察や会話を見聞きしていましたので、長女さんにも理解出来るように丁寧な説明を行いました。
訪問看護師さんの訪問時も看護師が行うケアに興味深々で、簡単なケアは長女さんも看護師と一緒に行っていました。
小さい子供さんに自分が弱っていく姿を見せることや看護師と一緒にケアを行うことに反対する方もおられると思いますが、この方はそれらを強く望んでおられました。
ある日、腹水がどうにもならなくなり、腹水排液を行いました。
お腹に針を直接刺すので、流石に長女さんが見るには良くないかなあと思いましたが、ご本人も長女さんもそのまま行うことを希望されました。
腹水の色は、通常はほぼ透明~黄色なんですが、癌がお腹(腹膜)に拡がって出血してしまうと少量の出血ならば腹水で薄まって淡いピンク色ですが、大量出血だと真っ赤(血性腹水)になります。
準備が終わり針を刺すと、残念なことに血性腹水が出てきました。大人の方でも血性腹水を見ると目をそらしたり退室される方がおられますが、長女さんは身じろぎ一つせず処置が終わるまでずっと冷静でご本人の傍から離れませんでした。
私が母子の絆の強さを間近で感じた瞬間です。
その後も最期までご本人は何も隠さず、妻として母として生き抜かれました。
長女さんは、命の大切さと同時に命には限りがあるということ母から学ばれたと私は確信しています。
秋の紅葉はこれから一気に進みますね。