たぶせ在宅クリニック 和歌山市の訪問診療

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院長コラムhead doctor’s blog

目の前の苦痛に対して・・・24.7.5

在宅医療

梅雨の蒸し暑さの真っ只中ですね。
今年も暑さ対策を万全にしています。

今回は肺の病気による呼吸苦のお話しです。
間質性肺炎や肺気腫/COPDという病名をご存じですか?
患者さんの数自体はそう多くないですが、在宅医療でも時々担当させて頂きます。

この病気は間質性肺炎の一部のタイプを除き、根本的な治療方法はまだ開発されていないので、進行するばかりです。症状としては、動いた時の息切れ/呼吸苦、咳、痰が主たるもので、これらが強くなってくると食欲低下/やせ、不眠、不安、いらいらなど様々な症状も合併します。

病気と診断されて初期~中期は、様々な薬や酸素投与で症状緩和は可能ですが、中期以降は症状緩和に有効な薬はなく、徐々にですが確実に症状が悪化していくだけです。そしてその頃になると病院への外来通院が困難/出来なくなるので、私のような在宅医に紹介されてきます。つまり在宅医の紹介される時点では既に症状緩和の薬をほぼ使い切っていて、私にはほとんど武器は残されていないのです。

現在2名の患者さんを担当していますが、お2人とも初回訪問から数カ月が経ちます。
平均1~2か月でお別れするがん患者さんとは違い、この病気はゆっくりと進行するので数カ月~年単位でのお付き合いになります。
訪問ごとに徐々に症状が悪化していて、酸素を吸いながら話すだけでもハアハアと呼吸苦が出て、休みながら患者さんは必要な報告してくれます。それに対して私は緩和ケアの専門家でありながら、医学的にして差し上げられることは何もありません。

こんな状況ですから、在宅医が来ても楽にならないなら金の無駄という理由で途中で終了となった患者さんも過去にはおられました。

しかし現在のお2人は、こんな私の訪問でも心待ちにされています。
お一人とは、政治・経済・社会問題・阪神タイガースの意見を交わし、もうお一人は冗談がお好きなのでバカなことばっかり言っています。
1回僅か30分前後ですが、家族さんによると私の訪問の前後はぐったりしていても、訪問中は眼に力があり顔には赤みが増していて、呼吸苦がありながらも揚々と会話をされているそうです。

私としても、武器がない状況で患者さんに何を提供できるのか、お金をもらう価値があるサービスを提供出来ているのか、在宅医の役割とは何なのかをいつも考えさせられ、まるで患者さんから試されているような感覚になる貴重で重要な訪問となっています。

在宅医療は奥深いので、ずっと修行ですね。

日野原重明先生のお言葉です。
(医学的に治療法がない患者を前にして)私たちがしなくてはならないのは、医師として命を伸ばすこと以上に何をすべきかを考えることです