院長コラムhead doctor’s blog
笑顔だけでなくユーモアも添えて22.11.13
私が担当するがんの患者さんのほとんどは抗癌剤治療を終了した方か、そもそも抗癌剤治療が出来なかった/敢えてしなかった方です。
しかし、現在抗癌剤治療中という方も時々おられます。
今回はそのお話しです。
患者さんは壮年世代で、会社勤務で働かれていた方です。
大きな病院で抗癌剤治療中に、病状悪化で入院となり抗癌剤治療を中断していました。
その後病状はある程度改善したので、退院して自宅療養を続けることになり、私の訪問診療が始まりました。
経過観察のために大病院の外来にも通いながら、私も定期的に訪問していました。
ある時、病院の主治医から血液検査のデータも回復したから、抗癌剤治療を再開したらという提案が出ました。
その提案に対して、患者さんは再開するかどうかを凄く悩んでおられました。
訪問看護師さんから、「先生の次の訪問時に、抗癌剤の再開について相談したいそうです」と連絡があったので、その日は充分な時間を取って訪問しました。
私が訪問すると、予想通り患者さんは悩んでおられます。
患者さんは聡明な方なので、病院の先生の説明はよく理解されており、私から補足説明する必要はほとんどありませんでした。
「抗癌剤治療を再開したいけど、今までに副作用で辛い経験もしているので、本当に堂々巡りで結論が出ません。」
傍ではご家族さんが黙って本人と私のやり取りを聞いておられます。
一通りの会話が終わりましたが結論は出ずに、部屋の空気が徐々に重苦しくなりました・・・。
私の頭の中は、「この方は必要な情報を正しく理解し、議論は十分に尽くされている」と感じていたので、ここは1発ボケるしかないと。
「抗癌剤をするかどうか、僕とじゃんけんで決めませんか?」
不意を突かれた患者さんはポカンとされています。
もちろん本気で言った訳ではありませんので、患者さんはすぐに笑ってくれました。
そしてこの日、私が患者さんに一番伝えたかったメッセージを続けました。
「抗癌剤を再開してもしなくても、私は最大限の在宅サポートを必ず提供します。」
この日の訪問(40分間)で、じっくりと想いを聴きましたが、治療再開の結論が出た訳ではありません。
結果だけを見れば、私は医師として何もしていない=ぼったくりの訪問診療とも言えます。
しかし、ご本人の医療的に大切な決断に関わることは、地味であっても大切な役割と考えています。